歯を失った際の治療は、今までですと入れ歯(義歯)、ブリッジでしたが、第3の治療法として現在、インプラントが注目されています。そこで、インプラントがどんな治療なのか、基本的なことについて説明します。
インプラントとは、人工の材料や部品を体に入れることの総称です。歯科では、歯を失ったあごの骨(顎骨)に体になじみやすい材料(生体材料)で作られた歯根の一部あるいは全部を埋め込み、それを土台にセラミックなどで作った人工歯を取り付けたもので、一般には人工歯根(正式には口腔インプラントあるいは歯科インプラント)、単にインプラントといいます。
基本的には三つのパーツからできています(図1)。顎骨の中に埋め込まれる部分すなわち歯根部(インプラント体)、インプラント体の上に取り付けられる支台部(アバットメント)、歯の部分に相当する人工歯(上部構造)から構成されています。
インプラント体の材質はチタンまたはチタン合金で、大きさは直径が3~5mm、長さは6~18mmです。アバットメントの材質はチタン、チタン合金、ジルコニアなど、上部構造の材質はレジン(プラスチック)、セラミック(陶器)、セラミックとレジンを混ぜたハイブリッドセラミック、金合金などがあります。
インプラント治療のメリット
インプラント治療は、手術が必要である、顎骨の骨量や骨質(硬い、軟らかい)の影響を受ける、治療期間が長い、自費診療のため治療費が高額となる、などのデメリットがあります。しかし、残っている歯への負担がなく、自分の歯(天然歯)に近い機能や審美性の回復が可能である、などのメリットがあり、生活レベルの向上に伴い、利便性や快適性さらには審美性を求める風潮が広まる中で、それらの要望に応えられる治療と言えます(図2)。
インプラントと自分の歯(天然歯)の違いは?
インプラント体と周りの骨とは隙間がなく、くっ付いた状態です。一方、天然歯の歯根の周りにはクッションの役割を担う歯根膜という組織があります(図5)。そのため、かむと歯はわずかに沈み込みます。またこの中には、かんだ時にかかる圧力を鋭敏に感知して、かむ力をコントロールするためのセンサー(受容器)もあります。インプラントにはこのようなクッションもセンサーもありません。骨の弾力によるほんの僅かな沈み込みしか生じません。かむ力はあごの骨の周りの骨膜、かむための筋肉、あごの関節などにあるセンサーによってコントロールされますが、歯根膜にあるセンサーに比べ「感度」が劣るため、かみ合わせには十分に注意する必要があります。 また、インプラントの周りの粘膜(歯の場合は歯肉)は天然歯と異なっています。天然歯では、歯肉はエナメル質と付着上皮と呼ばれる部分で、その下の結合組織はセメント質と結合し、細菌などが容易に侵入できないようになっています。インプラントにはそのような構造はなく、細菌は容易にインプラントと粘膜の間に侵入します。そのため、歯ブラシによる清掃が重要となります。
インプラントの基本的な手術方法は?
術式には大きく二つに分けられます。手術を1回だけ行う1回法と、手術を2回に分けて行う2回法があります(図6)。
(1)1回法
インプラント体を埋める部位の粘膜を切開して骨を露出させ、ドリルで穴を開けワンピースインプラントを埋め込みます。ツーピースインプラントの場合にはインプラント体を埋め込み、同時にアバットメントを連結します。
(2)2回法
1回法と同じようにしてインプラント体を埋め込んだ後、上部の穴にカバーを付けます。切開した粘膜を糸で縫い合わせて1回目の手術は終了です。インプラント体と骨が結合するまで上顎(上あご)では5カ月前後、下顎(下あご)では3カ月前後待ちます(治癒期間)。2回目の手術はカバーの上の粘膜を切開して、カバーを除去後仮のアバットメント(ヒーリングアバットメント)を連結します。粘膜の治癒を2~3週間待って、本物のアバットメントを連結します。骨の量が十分にあり硬い場合には1回法でも問題はありませんが、骨の量が少なく骨移植が必要だったり骨が軟らかい場合には2回法が行われます。
メインテナンスはどのように行われますか?
上部構造を装着したらインプラント治療は終わりではありません。むしろインプラントを長く持たせるためには日常の手入れと観察が大切です。清掃は歯科衛生士の指導の下に専用の歯ブラシなどを使用して行います(図8)