加齢に伴うお口の機能の衰え「オーラルフレイル」
最近、食べこぼしが増えた、むせることが増えた、滑舌が悪くなった、といった事がありませんか?
それは加齢に伴う、お口の機能の衰え「オーラルフレイル」かもしれません。
これらの症状は“要介護状態の始まりを示すサイン”として注目されるようになってきています。
「オーラルフレイル」とは、口に関する“ささいな衰え”が軽視されないように、口の機能低下、食べる機能の障害、更には、心身の機能低下まで繋がる「負の連鎖」に警鐘を鳴らした概念です。
オーラルフレイルの症状が見られる高齢者と、そうした症状が見られない高齢者を4年間にわたって追跡調査した結果、オーラルフレイルの症状が見られる高齢者の死亡リスクは2.09倍、要介護になる危険度も約2.35倍高まる事が分かりました。
オーラルフレイルは、可逆性であり、健康な状態に戻ることが可能であると言われており、かかりつけ歯科医で定期的に受診する事が推奨されています。
口のまわりのささいなトラブルを「年のせい」と諦めず、適切な対策をとる事が健康長寿の実現に繋がると言えます。
「医科と歯科の連携が進む現代の医療」
手術やがんの治療の前にお口の健康状態をチェックするのが、当たり前。
医科歯科連携が手術や抗がん剤の治療効果を高めている。
医科と歯科の連携治療が成果を上げ始めています。
手術や抗がん剤治療の前後に、口の中の清掃などを行う「口腔(こうくう)健康管理」の取り組みが広がり、治療後の合併症や副作用を減少させています。
更には入院日数の減少にも貢献しており、より一層の普及が期待されています。
がんの治療中には、抗がん剤の治療では副作用で免疫力が低下し、むし歯や歯周病が悪化しがちです。
更に口内の細菌による感染症によって、がん治療そのものに悪影響が生じる事もあります。
外科手術においても口の中の細菌によって、手術後の傷の感染や肺炎などの合併症を起こす可能性があります。
そのため、治療前後の口腔機能管理が一部の医療機関で導入されるようになりました。
それらの結果についてまとめた報告によると、口腔機能管理を行った場合には、手術後の合併症がおよそ4分の1まで減少する事が確認されました。
また入院日数も胃がんで約10日、その他の疾患でも軒並み減少する事が分かりました。
手術後の合併症が減少する
これらの結果を受けて、厚生労働省は2012(平成24)年から周術期口腔機能管理を保険適用して、対象を少しずつ増やしてきました。
現在では、のどや舌のがん、手術後に肺炎を起こしやすい食道がんの手術から、脳卒中や人工股関節置換術などの手術に至るまで、対象は多岐に広がっています。
また手術のみならず、口内炎の発症率が高い抗がん剤を服用する患者も対象とされています。
特に抗がん剤治療では長期的に口腔機能管理が必要とされることが多いため、医科と歯科の連携が今後、更に求められていくと考えられています。
がん手術を受けた患者50万人以上を対象に、歯科医師による口腔機能管理の有無と手術後の肺炎発生率と死亡率の関係を調べる解析が東京大学で行われました。
その結果、口腔機能管理を受けた患者は受けていない患者と比較して、肺炎の発症率が3.8%から3.3%に低下し、手術後30日以内の死亡率は0.42%から0.30%に低下しました。
がん手術前の患者に対する歯科医師による口腔機能管理によって、手術後の肺炎発症率と死亡率を減少させる事が分かりました。
上の図は、がん患者さんに対して手術前と手術後に口腔機能管理を行った場合、行わなかった方と比較して、入院日数が短縮した事を示しています。